【挿入】地図/大樹寺 岡崎城 八丁味噌
岡崎公園の徳川家康像
愛知・岡崎市 八丁味噌の秘伝探る 戦の保存食 家康公が珍重
名古屋近郊は独特の食文化が数多い。八丁味噌もその1つだ。ルーツを探ると愛知県岡崎市にたどり着く。地元で古くからつくっていた味噌を、この地で生まれた徳川家康が珍重し、幕府を開くと同時に江戸に伝え、その後全国に広まったとする説もある。城下町・岡崎に八丁味噌の伝統を訪ねた。
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さてクイズから。八丁味噌の名前の由来をご存じか? 答えは
*岡崎城から西に八丁(約870メートル)離れた場所でつくられ始めたから*。正確な記録がないので起源は定かでないが、江戸時代よりずっと古くからこの地で味噌がつくられていたという。現地には今も、伝統製法をかたくなに守る老舗が2軒残る。
工場見学ではガイド役が八丁味噌の特徴などを解説(まるや八丁味噌)
岡崎は東海道の宿場町としても知られる。その旧街道を挟んで2軒はある。北が「カクキュー八丁味噌」、南が「まるや八丁味噌」だ。いずれも製造現場の見学が可能。
まずは創業1645年のカクキューへ。資料館では等身大の人形を使ったジオラマで工程を再現。「原料は大豆と塩だけ。発酵を促す麹(こうじ)に米などを使う味噌もあるが、八丁味噌は麹も大豆。その分、米麹の味噌と比べると甘みに欠けるが、うまみが濃厚だ」と、総務部長太田高司さんが教えてくれる。
発酵・熟成過程も独特だ。直径と高さ、いずれも2メートルはあろうかという大きな桶(おけ)に約6トンの味噌を仕込み、「二夏二冬」(約2年)寝かせる。味噌は数カ月の発酵・熟成期間でも完成する。ただ風味は長期熟成にかなわないのだという。
熟成中、桶の上には無数の石が積まれる。総重量約3トン。ピラミッド状に整然と積み上げる石は岡崎の八丁味噌に欠かせない風景だ。「石積みの技術は、まるやさんが上かもしれません。美しい石積みですよ」。太田さんに耳打ちされて旧街道を横切り、「まるや」に向かう。
まるやの創業は1337年といい、室町時代から約680年も伝統製法を守っている。浅井信太郎社長の案内で味噌蔵へ。薄暗い蔵の中に、巨大な桶がずらりと並び、なかなかの壮観だ。「石積みは職人技。大中小3つのサイズの石を200個以上、崩れないように、すき間なく積み上げる」と説明する。常に上から圧力を掛けることで桶の中に対流を生み、熟成をむらなく促すための先人の知恵だという。
八丁味噌は水分含有量が一般の味噌より少なく、日持ちする。戦に出向く武士にとって絶好の保存食でもあった。徳川家康が八丁味噌を大切にしたのは、そんな理由もあったらしい。
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家康公に敬意を示そうと味噌蔵見学の後に松平・徳川家の菩提寺、大樹寺に足を延ばした。桶狭間の戦いで今川義元が討たれ、家康(当時松平元康)は大樹寺に逃れた。先祖の墓前で自害する覚悟だったが、当時の住職に諭されて翻意したと伝えられる。寺には江戸幕府の初代家康から14代家茂までの歴代将軍の位牌(いはい)が安置されている。興味深いのはそれぞれ位牌の高さが生前の身長と同じこと。家康の位牌は159センチメートル。小柄な人であったようだ。
大樹寺にはもう一つ見逃せないポイントがある。本堂の正面に立って山門を真っすぐ見通すと、山門に切り取られた四角い空間のほぼ中央に岡崎城が眺められる。訪問日は薄曇りで、くっきりとはいかなかったが、おぼろげながら天守閣が見通せた。3代将軍家光が寺を整備する際に「祖父生誕の地を望めるように」と命じた配置という。直線距離で約3キロメートル。現代になって街中に高い建物が建ったが、この景観だけは長年守ってきた。伝統を重んじる岡崎の気質がここにもうかがえる。
(編集委員 石塚由紀夫)
<旅支度>見学無料 試食も可能
製造現場の見学は愛知環状鉄道の中岡崎駅、または名古屋鉄道岡崎公園前駅から徒歩数分。見学は無料。売店で随時受け付ける。みそ田楽などの試食も。カクキュー八丁味噌の郷(電話0564・21・1355)、まるや八丁味噌(電話0564・22・0222)へ。
大樹寺(電話0564・21・3917)はJR岡崎駅もしくは名鉄東岡崎駅からバスが便利。大樹寺行きバスに乗り終点下車。徒歩10分ほど。徳川将軍の位牌などの拝観は大人400円。江戸時代に大和絵師・冷泉為恭が描いたふすま絵も公開している。
製造現場の見学は愛知環状鉄道の中岡崎駅、または名古屋鉄道岡崎公園前駅から徒歩数分。見学は無料。売店で随時受け付ける。みそ田楽などの試食も。カクキュー八丁味噌の郷(電話0564・21・1355)、まるや八丁味噌(電話0564・22・0222)へ。
大樹寺(電話0564・21・3917)はJR岡崎駅もしくは名鉄東岡崎駅からバスが便利。大樹寺行きバスに乗り終点下車。徒歩10分ほど。徳川将軍の位牌などの拝観は大人400円。江戸時代に大和絵師・冷泉為恭が描いたふすま絵も公開している。
【cf.】2013/3/27 日経
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