観光立国実現の道は
空港や港湾、使いやすく JTB社長 田川博己氏
国が成長戦略の一つに掲げる観光。2020年に訪日外国人旅行者数2500万人を目指すが11年は622万人にとどまる。最近は周辺国との関係悪化もあり、先行きは不透明だ。今、観光立国の実現に向け何が必要なのか。JTBの田川博己社長(日本旅行業協会副会長)と三越伊勢丹ホールディングス(HD)の石塚邦雄会長(日本百貨店協会副会長)に聞いた。
――2003年に小泉純一郎首相が『ビジット・ジャパン』と銘打って観光立国を目指す方針を明確に示しました。約10年が経過してどのように評価していますか。
「確かに03年に521万人だった海外からの旅行者は、ピークの10年には861万人にまで増えた。しかし、世界各国・地域の外国人訪問者数ランキングでは30位にとどまっている。これは03年当時とほとんど変わっていない。世界第3位の経済規模の日本でいながらこの順位の低さの原因を考えていかなくてはならないだろう。第1位のフランスを訪れる外国人は7680万人だ」
「この間に日本各地の交通機関や案内板などの表示で中国語やハングルをよく見かけるようになり環境整備も進んではいる。しかし海外で(メニューなどを除き)日本語表示は見かけるわけではない。もっと取り組むべき大切なことがあるはずだ」
――根本的な部分はどこにあると思われますか。
「簡単なことだ。1970年代に大型旅客機ジャンボが就航した時に日本人の海外旅行の大衆化が進んだ。このように供給量(座席数)を増やせばいいのだ。国内外の大手航空会社は燃費の良い機材の小型化の流れになっているが、チャーター便の規制緩和や格安航空会社(LCC)の相次ぐ参入もあり市場拡大の条件は整いつつある」
「日本は島国だから大型のクルーズ船で訪れやすいように港湾の整備も必要だ。不幸なことに10万トン級の大型船がベイブリッジ(横浜市)やレインボーブリッジ(東京)をくぐれない状況で、港に立ち寄ることができないでいる」
「実は入国時がネックになることがある。地方空港や港湾ではCIQ(税関、出入国管理、検疫)の体制も整っていないのが理由だ。1000人規模の乗客のいる客船が来たら入国手続きに2時間くらい待たされるケースも出てくる。CIQの業務は国土交通、法務などの各省に管轄がまたがり、省庁連携の推進や自治体への業務委託があってもいい。客船なら入国前に船内で手続きを終えるようなことだって可能だろう」
旅行の安全守る法律を
――外国人旅行者が日本に滞在している間について取り組むべき所はありませんか。 「訪日外国人旅行者を保護するインバウンド法(仮称)の制定を強く求めたい。日本人が日本の旅行会社を使って海外旅行をした場合、旅行業法によって幅広く旅行者のトラブルなどを補償することになっている。日本人を保護するための厳しい法律があるのに、日本を訪れている外国人旅行者を保護する法律がないのはおかしい。訪日外国人旅行者がなかなか伸びない底流にある問題だ」
「欧州、米国、ニュージーランド、オーストラリアなどでは海外の旅行者を保護するための政府の指導が徹底している。なぜ日本が野放図でいいのか。必要な規制だ。外国人の生命・安全・財産を守ることで誘客につながる」
「JTBは中国政府から中国人向けの海外旅行業務の認可を受けた。中国の旅行者が日本でトラブルに巻き込まれることもあり、質のいい旅行サービスを求められていることの表れだろう」
――将来的な目標である訪日外国人旅行者数3000万人は可能でしょうか。
「実力からすれば人口の2割くらいの人数が海外から来ても不思議ではない。日本には自然、歴史的建造物だけでなく、観光という言葉ではひとくくりにできないような最先端の工場、医療機関などもある。旅には経済、健康、文化、交流など様々な要素が含まれている。これからは観光よりもツーリズムという言葉を使ったほうがいいかもしれない。いろいろな取り組みを有機的に結びつければ、決して高いハードルではない」
たがわ・ひろみ 71年慶大商卒。JTB入社。2000年取締役。旅行商品の企画、開発の経験が長い。08年から現職。64歳。
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