苦境の電機産業に未来は 革新の余地、まだある 英ダイソン創業者 ジェームズ・ダイソン氏に聞く 日本での生産は困難
「紙パックのない掃除機」や「羽根のない扇風機」。コモディティー(日用品)化したはずの白物家電市場でつぎつぎと技術革新を起こして成長を続ける英ダイソン。その軌跡は苦境にあえぐ日本の電機産業と好対照をなす。創業者で最高技術責任者のジェームズ・ダイソン氏に製造業の未来を聞いた。
本国は開発専念
――ダイソンは増収増益だが、シャープ、ソニー、パナソニックなど日本の電機大手は大不振。同じ電機メーカーなのに、業績が全く違う。
「他社のことはよく分からないが、我々は新しい製品を世に送り出すことに集中している」
「日本にはソニーのようにすばらしい技術を持った企業がいくつもある。米アップルのスマートフォンに入っているソニー製の画像処理半導体は最先端だ。それを自社のスマホやデジタルカメラに載せて大ヒットさせられればもっと良かった」
「円高やその他のコストが高いので、日本で製品を組み立てるのは難しくなっている。我々も10年前に量産拠点をマレーシアに移した。英国は研究・開発に専念している。日本も同じような形になっていくだろう」
――1993年に成熟市場とされる白物家電に参入した。成功する自信はあったか。
「自信などなかった。アイデアだけだ。それを新製品として形にし、顧客に買ってほしいという希望を持っていた。買ってくれるまで改良し続けようと思っていた」
「白物家電にはまだまだ技術革新の余地がある。例えば当社が発売した新型のコードレス掃除機は、取っ手から遠いところにあったモーターを手元に付け、重心の位置をずらすことで吸い込み口を簡単に持ち上げられるようにした。壁や天井を楽に掃除できる」
「この製品のために軽くて高効率な新型モーターを開発し、高性能の電池を作った。いまはカーボンナノチューブのような新素材も使える。新技術で新しい製品を作るのはとても面白い。そういう喜びを忘れてしまった会社が多い気がする」
――生産拠点を海外に移すと、国内の雇用が維持できなくなる。
「製造業が強い国では、生産以外の仕事も増える。製造業が1人雇用するとそれ以外の分野で4人の雇用が生まれるという調査結果もある。事務、物流からレストランまで、製造業には幅広い波及効果がある」
「しかし製造業の大切さをメディアはうまく伝えてくれないし、政治家も製造業について真剣に語らない。英国の家庭にはエンジニアというのは洗濯機を修理する人だと思っている人もいる。エンジニアというのはもっと創造的な仕事だ。若い人たちはインターネットに未来があると思っているが、製造業にも豊かな未来がある」
国が起業支援を
――いまの日本ではダイソンのような製造業の起業がほとんどない。
「それは英国も同じ。外食などサービス業の起業は多いが、製造業の起業は少ない。米国には10億ドル規模のエンジェル・マネー(ベンチャーキャピタルなど)があるが、英国や日本にはない。サービス業は少ない投資で出店できるが製造業の起業にはお金がかかる。私は自宅を担保に入れて銀行からお金を借りた」
――キャメロン首相に頼まれて「独創的技術立国・イギリス」というリポートをまとめた。
「英国が欧州最大のハイテク輸出国になるために必要なことを提言した。実現してはいないが、製造業の起業を政府が資金面で支援したり、税制で優遇したりすることを求めている。政府が製造業の支援に本気になれば投資家や大学もついてくる」
(聞き手は編集委員 大西康之)
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