うつ病、ネットで和らげる
患者同士で励まし合い マイナス思考を「裏返し」
うつ病の患者を支援するインターネット上のサービスが相次いで登場している。患者同士が対話する場を作るなど、ネットの特性を生かして症状の改善や再発防止につなげている。休職者が早く仕事に戻れるよう、入力した生活の記録を産業医に送信するアプリも登場。自宅にいながら利用できる手軽さもあってユーザーが増えている。
千葉県に住むうつ病の女性(28)は毎日、自宅のパソコンからインターネットサイト「U2plus」の交流サイト(SNS)「FunCan」にアクセスする。「きょうはヨガに取り組みました」。日記のように書き込むと、他のユーザーから「いいね」「すごい」などの反応がある。長く仕事を休んでいるが「孤独を感じない」と話す。
昨年7月に発病し、食欲不振と不眠、薬の副作用などで10キロ痩せた。付き添いがないと外出ができない時期もあった。サイトの利用を始めたのは今年2月。SNSに書き込むため、自宅でヨガや家事に取り組むようになったといい、「抗うつ剤の量が減ったうえ、外出もできるようになった」と笑顔を見せる。
このサイトはユーツープラス(東京・港)が今年1月、小堀修・千葉大特任講師の協力を得て立ち上げた。うつ症状の回復や予防などが目的で、現在の登録者は約2千人。欧米で普及する治療方法の一つで、日常の考え方や行動を見つめ直すことで自分の感情をコントロールする「認知行動療法」に基づくプログラムを提供している。
楽しいことを探す
「FunCan」は自分の行動を記録し、ユーザー同士が共有することで、自分ができること、楽しいことを探せるようになるのが目的。ほかに、つらい気分のときに文章をまとめることで別の考え方を探す「コラム」などのプログラムがある。月額970円の有料会員になれば月2回、臨床心理士ら専門家のアドバイスも受けられる。
同社の東藤泰宏社長はIT企業に勤務当時、うつ病に苦しみ、休職した経験がある。「認知行動療法は自宅にいてもできる。休職期間の短縮や再発の防止に役立てたい」と話す。
うつ病の患者数は増加傾向にある。厚生労働省の2008年の患者調査によると、全国の患者数は推計70万4千人。05年は同63万1千人で、わずか3年で7万人以上増えた。警察庁の調査では、昨年度の自殺者約3万1千人の約2割はうつ病が原因とされる。
国立精神・神経医療研究センターの大野裕センター長が監修し、08年にサービスを開始した「うつ・不安ネット」には約1800人が登録(ウェブ版の年間登録料5250円)している。画面上の質問に答えていくと、プラス思考に導かれる仕組みになっており、認知行動療法に基づく。
例えば「話下手で営業成績が低迷している」などと悩みを入力すると、その悩みの反対の側面を書き込むように指示される。「友人から聞き上手と言われたことがある」と書くと、「あなたには話下手な事実がある一方、聞き上手という事実もある」という一文が画面上に出てくる。
アプリで復職支援
利用者がマイナスと考えていることに、プラスの面があることを気づかせるのが目的だ。携帯版の利用者への調査では、約8割が気分の改善につながったという。大野センター長は「うつと診断された人は医師の診察を受けるべき。サイトはうつの予防やうつを克服した人の再発防止に使ってほしい」と話す。
スマートフォン(高機能携帯電話)向けのアプリも登場した。復職支援プログラムを提供する医療法人社団惟心会りんかい築地クリニックの関連会社、フェアワーク・ソリューションズ(東京・中央)は今年4月、主に休職者向けの無料アプリの配信を始めた。
食事を取った時間、睡眠時間、その日にしたことなどを入力する。月末にPDF化して、事前に登録した上司や産業医にメールを送って回復の度合いを正確に把握してもらう。
同クリニックの吉田健一理事長によると、早期の復職を望む患者は上司や主治医に対し、自分の都合のいいように症状を説明する傾向がある。その結果、回復する前に職場に戻り、症状が悪化して、再び休職する例が多いという。
アプリを通じて日常生活の様子を把握することで、復職の適切なタイミングを見つけられる。吉田理事長は「自分がやったことを報告するのは仕事の基本。アプリを日報感覚で使うことで、復職の準備にもなる」と話している。
(定方美緒、鈴木碧)
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